読書
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 ブレイディみかこ 新潮文庫 『他者の靴を履く』を読んでみて、「この人の書く文章は地べたにちゃんと立って自分の頭で考えられているな。信用できる」と感じた私は、その本を書くきっかけとなった"種本"の本…
『モダン』 原田マハ 文春文庫 ニューヨーク近代美術館、略称MoMA(The Museum of Modern Art)は、「The Modern」というニックネームで親しまれているようです。 タイトルが『モダン』であるように、所収の5編の短編すべてがこのMoMAを舞台にして行われます。…
『禅と日本文化 新訳完全版』 鈴木大拙 碧海寿広訳 角川ソフィア文庫 日本人とは、ひいてはその種族が発展させてきた日本文化の本質とはいかなるものだろう? という問いを以前から持っていたのに加え、「禅」「瞑想」というものに興味を持っていた私は、 『…
『ジゴロとジゴレット モーム傑作選』 サマセット・モーム 金原瑞人訳 新潮文庫 「ほんとのことをいう」モームの短編集 1 「アンティーブの三人の太った女」 2 「征服されざる者」 3 「キジバトのような声」 4 「マウントドラーゴ卿」 5 「良心の問題」 6 「…
『精神科医が教える 病気を治す感情コントロール術』 樺沢紫苑 あさ出版 病気が治る人と治らない人の違い 病気と闘い抗っている⇔病気を受け入れている 悪口が多い⇔感謝の言葉が多い ネガティブな言葉が多い⇔感謝の言葉が多い 何でも不安に思う⇔小さなことに…
『楽園のカンヴァス』 原田マハ 新潮文庫 はてなブログユーザー様からご紹介いただいた一冊、原田マハ『楽園のカンヴァス』を読了しました。一言で言うならば、感心しました。作品そのものにも、作者の原田マハさんの筆力にも。 今日は本書によりそのいかに…
20日間ほどをかけて、ようやくカート・ヴォネガット・ジュニアの第6長編にして代表作の一つ、『スローターハウス5』(伊藤典夫訳、ハヤカワ文庫)を読み終えました。 作者のドイツ方面での第二次世界大戦従軍体験、中でも連合国側でも1963年までひた隠しに…
『芥川龍之介短篇集』 ジェイ・ルービン編 村上春樹序 新潮社 本書の編者・ジェイ・ルービンは冒頭に書いた「芥川龍之介と世界文学」という概説の中で、「地獄変」について《芥川の作品の中で一編しか後世に残せないとしたら、この作品だろう》と評価してい…
『太宰治全集8』 ちくま文庫 原稿用紙で57枚の太宰治後期の短編、「ヴィヨンの妻」が好きです。理由は、太宰は女主人公の一人称の小説がうまいこと(他に「女生徒」『斜陽』など)、のちに発表される『斜陽』『人間失格』内に含まれる要素の萌芽が見られる…
『毎日を好転させる感謝の習慣』 スコット・アラン 弓場隆訳 ディスカヴァー・トゥエンティワン タイトル通り、感謝を日常に取り入れることを推奨する本です。感謝の念を持つことによって、どのような人生のメリットが生まれ、具体的にどのように感謝の習慣…
『哀れなるものたち』 アラスター・グレイ 高橋和久訳 ハヤカワ文庫 カバー型帯 知人に「面白いよ」と教えられて2月下旬、ヨルゴス・ランティモス監督、エマ・ストーン主演の映画、『哀れなるものたち』を観てきました。 www.searchlightpictures.jp 2時間半…
『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』 ブレイディみかこ 文藝春秋 シンパシーとエンパシー みなさんは「共感」という日本語、どのように使われますか。 「今の日本の政治家の話し方にはまったく共感できない」 「この監督の一つ前の作品には…
W・サマセット・モームの世界的ベストセラーの一つ、金原瑞人訳『人間の絆』(新潮文庫)を読み終えました。 『人間の絆』 サマセット・モーム 金原瑞人訳 新潮文庫 上下巻 作品後にモームが寄せている「序」でも触れられているように、自伝的小説です。 モ…
たまに発作のように中島敦の小品を読みたくなるときがあります。小品といっても美しく磨かれた珠のような佳作。佳作というか名作。無駄なく、欠けているものもない構成美と、「何々である」と野暮な解説をさせる気も失せる深淵さ。謙虚さ。そんなものを湛え…
イントロダクション 昨年村上春樹と川上未映子によるインタビュー集『みみずくは黄昏れに飛びたつ』を読んでいて、1995年阪神大震災後、神戸と芦屋での2回のチャリティー朗読会の合間に短編「めくらやなぎと眠る女」が短く書き直され、「めくらやなぎと、眠…
『実力も運のうち 能力主義は正義か?』 マイケル・サンデル 鬼澤忍訳 ハヤカワ文庫 いやあ、面白かったです。どういった種類の面白さかというと、知的丁寧さと思慮深い論考によって、「自分はこれまでだいぶ間違っていたのではないか」と自責すら覚える内省…
こんにちは。 雨が降っています。 全国的に快晴というところはなさそうな祝日。 いかがお過ごしでしょうか。 『実力も運のうち 能力主義は正義か?』を読んでいるのですがこれがなかなか読みごたえがある。私の「能力」だと一日に頑張っても2章しか読み進め…
レイモンド・チャンドラー『ロング・グッドバイ』で彼の文体に魅了され、初長編作『大いなるお別れ』を読んでみました。 mori-jun.hatenablog.com 期待していた「文体の精度・密度」は得られなかったものの、主人公・フィリップ・マーロウの性格は知っていた…
2006年刊行、翌年山本周五郎賞受賞、並びに本屋大賞2位だった本書を読了しました。 裏表紙の概要文に「キュートでポップな恋愛ファンタジーの傑作」とありましたが、頷ける内容。普段あまり読まないジャンルの小説だったので、「面白がらせ方」を面白がる読…
書影 『[新訳]禅マインド ビギナーズ・マインド』 鈴木俊隆 藤田一照訳 PHP研究所 読もうと思った動機 たしかですけれど、自分の瞑想法に、疑問のようなものを抱いて、少し本格的な書物を手に取ってみようと考えた記憶があります。鈴木大拙を調べているう…
書影 『ブルーモーメント』 檜山沙耶 ワニブックス 購入したいきさつ 2022年夏頃、YouTubeに、以下と似たような動画がサジェストされてきました。 www.youtube.com なんだこのぶっ飛びお姉さん! 面白い! それにこの番組なんだ? と興味がかき立てられたわ…
はじめに W・サマセット・モーム『月と六ペンス』を読み終えました。イギリス文学はディケンズをちょっぴり齧った程度。だいぶ考えさせられました。久々に読みごたえのある内容というかテーマ。スタイルと文体は若干古臭い感じはしますが、それでもエンター…
吉行淳之介の小説システム図 『若い読者のための短編小説案内』 村上春樹 文春文庫 吉行淳之介「水の畔り」 P62を参考 こんにちは。 今日は2024年2月4日、立春ですが、だいぶ冷えこんでいます。 寒は明けたわけですが、今週、雪がちらつくとか何とか。 毎年…
科学的、哲学的、心理学的、宗教的、その他さまざまな観点から時間について語られてきましたが、現代の最新の理論物理学――著者はその中でも量子重力理論を扱い、超ひも理論と並ぶ「ループ量子重力理論」を主導する一人――の見地に立つと、どう見られるのか? …
気になった箇所 上善は水の若(ごと)し。水は善く万物を利して争わず、衆人の悪(にく)む所に処(お)る、故に道に幾(ちか)し。 居は地を善しとし、心は淵を善しとし、与(まじわ)るは仁を善しとし、言は信を善しとし、正は治を善しとし、事は能を善しとし、動は…
「―――」 七里は、気合で、誘った。 歳三は動かず。 七里は踏みこんだ。 とびあがった。 上段から、電光のように歳三の左籠手にむかって撃ちおろした。 が、その前、一瞬。 歳三はツカをにぎる両拳を近よせ、刀をキラリと左斜めに返し、同時に体を右にひらい…
私は中学までは主に歴史小説を読んでいたのですが、高校に上がって、いわゆる純文学小説を読むようになりました。 それは、教科書に載っていた中島敦「山月記」や太宰治「富嶽百景」に触れたからというのもあります。 それ以降は書店で自ら本を選び自分の知…
2024年1月20日、今日は日本の暦では大寒です。 文字通り最も寒い季節とされます。 寒の期間(小寒~立春)のちょうど中日であり、そう考えると、これから寒が退いていくとも考えられます。 みなさん、どうぞご自愛ください。 私も自愛します。 具体的にどう…
先週帰国した妹と話していて、一番驚いたのは、 「アメリカでは、年齢を訊ねるのはNG、むしろ法的にまずいことになる」 ということでした。 履歴書でも年齢は記さないとのこと。 そのときは、「国が違うと前提となる文化もぜんぜん異なるんだなあ」ぐらいに…
前回の記事で芥川龍之介「歯車」を取り上げたのは、村上春樹「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」という短編を再読してみたかったからでもあります。 この短編は村上春樹の現最新短編集『一人称単数』(2020)に所収されていて、8つの短編の中でも一…