もりじゅんの読書ブログ

読んだことない人には面白そうと、読んだことある人にはヒントの1つをと、作品を紹介できたらと思います

MoMAを舞台にした短編5編 原田マハ『モダン』

 

『モダン』 原田マハ 文春文庫

 

ニューヨーク近代美術館、略称MoMA(The Museum of Modern Art)は、「The Modern」というニックネームで親しまれているようです。

タイトルが『モダン』であるように、所収の5編の短編すべてがこのMoMAを舞台にして行われます。MoMAで働く人々が主人公です。

冒頭の「中断された展覧会の記憶」を中心にして本作について語ってみたいと思います。

 

 

1 「中断された展覧会の記憶」

MoMAで展覧会ディレクターとして働く杏子ハワードは、ニューヨークで3.11のニュースを見る。それは10年前の9.11を思い出させずにはいられなかった。

杏子が協力していたふくしま近代美術館(架空の美術館)での「アンドリュー・ワイエスの世界」展に、ワイエスの「クリスティーナの世界」はMoMAから協力貸与されていた。

MoMA理事会は、原発事故での放射能の作品への影響を考え、貸与中止=引き上げを指示する。

福島に向かわされるのは杏子。そこでは貸与時に交流のあった長谷部伸子を始めとするふくしま近代美術館の人々、いや、震災下の福島の人たちの生活を目の当たりにする……。

 

と、途中までのストーリーを要約したのですが、本作中なぜ当作が1番印象に残ったかというと、3.11をめぐる事象が、海外から、異国人の視点から考えられていることです。

当時、私は、日本国民の一人として、今から考えると、受動的に、その「出来事」の中にいたと思います。

それが、杏子の夫のディルの次のような発言でハッとさせられます。

 

(上略)困難に直面しても節度を保ち、冷静にふるまう国民。自分は日本が好きだった。けれどもはや、日本という国が信じられなくなった。原発事故から一ヶ月も経って、ようやく「レベル7」と認めた日本の政府。じゃあその間国民の安全はどうなったんだ? 逃げ出すこともできなかったフクシマの子供たちはこのさきどうなるんだ? 自国民の安全や子供の未来をないがしろにしても事故の重大さを隠蔽する。そんな国に、僕は君を行かせたくないよ。

 

私自身には被害はなかったものの、その渦中、政府の対応に対して、疑問に感じたことはなかった。被災者の方々が懸命に生活しているように、国もまた、必死に対応していると信じたかった。しかし、ディルの日本を突き放すこの台詞によって、ようやく日本に巻きこまれていない立ち位置の人の視点を私は得られたのかもしれません。すっと、冷めて、気づく、何かがありました。

 

と、私が個人的に考えさせられたこととは別に、ストーリーは、二転三転したあと、ハートウォーミングな展開で落ち着きを見せます。それがまた日本人の視点に戻った一読者としての私には、しみじみとしてよかったです。ネタバレになるので書けませんが。

 

2 「ロックフェラー・ギャラリーの幽霊」

MoMAで監視員として働くスコット・スミスは、冬至の日の閉館間際、風変わりな青年客を見る。

その青年は「アルフレッド・バー」と自らを名乗る。

スコットの行きつけのバーの常連客から借りた過去にMoMAで開催された展示会の図録の中に、新聞の切り抜きが挟まれていた。

(1981年)コネチカット州ソールズベリーで、昨日、ニューヨーク近代美術館初代館長、アルフレッド・バー・ジュニアが他界した。享年七十九。

写真はスコットが目撃した青年の面影があった……。

 

3 「私の好きなマシン」

MoMA初代館長アルフレッド・バーは、美術のカテゴリーにデザインを組み入れた最初の人でもあった。

そんな彼が企画した「マシン・アート」を子供の頃見たジュリア・トンプソンは、工業デザイナーを目指す。

彼女がハイスクールのとき、公園で退職したばかりのアルフレッド・バーと話す機会が訪れる。夢中になってお喋りする彼女。

結末、ある会社からの依頼が五十を過ぎたジュリアの元に届く……。

 

4 「新しい出口」

セシルは大マティス展を開催することを夢見、ローラは大ピカソ展を開催することを夢見る。そんな仲良しだった二人のうちセシルが9.11で犠牲者になった。ローラはMoMAを退職して第二の人生を歩み出すことを、マティスとピカソの複合展を見ている最中、決意する。

 

5 「あえてよかった」

(原田マハ本人の経歴と近い)森川麻実は、日本の企業からMoMAへ研修として勤めていた。

あれこれと世話を見てくれるパティ。

日本へ帰国が近づいているとき、麻実はMoMAのデザインストアの企画「ニュー・ジャパネスク」で、箸が✕の字にディスプレイされていることが気になり、それを修正してもらおうとパティに頼む。

なぜ✕の形ではダメなのか、いまいち納得いかないながらも展示を直す連絡をしてくれたパティ。

麻実の勤務最後の日、パティからのお箸のプレゼントがあった。

そのお返しに、ニューヨークらしさ満載のメッセージプレゼントを残す麻実。

 

 

ところで、ガルシア・マルケス『百年の孤独』が新潮文庫から文庫化されたみたいですね。

672ページ。

うーん、読みたいけれど、今は、ちょっとやめとこうかな。

何か小説でお薦めのものなどありましたら教えてください。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。